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2014年6月 8日 (日曜日)

THE BIG FELLAH 4

第四幕 一場 1998年5月 マイケルのアパート

ルエリの表情が違う。アイルランド訛りが抜けて、ニューヨーク訛りになっているらしい。聴きやすくなっているし、戯曲にもはっきり書いてある。ほとんど英語が解らない私でも、読みやすくなっていた。
トム・ビリーはお腹がでっぷりとして、マイケルは髪の毛をあげて髭を蓄えていた。浦井くんは特別若く見える32歳だけど、あんな風貌のもっと老けた32歳もいるし、50代に見えるかと言うとあんまり見えないけど、でも時の経過は感じさせる。服装もおじさんっぽい。

6度目の挑戦でやっと分隊長になったマイケル。出世欲はあったらしい。
5回だめだったっていうことは…合格率がどうだかわからないけど、命令に絶対で、ポーンなマイケルは隊長さんには向いてないんじゃ?
しっかりやってるのかな、部下に侮られていたりしてないかな、と心配になっちゃったりして。決めてくれない上司はつらいから。

トム・ビリーの差別発言の対象はゲイだけじゃない。女性蔑視でもあり、人種差別あり、障がいを持ってる方へも向けられている。ルエリは通報のシステムを聴こえない人でも使えるいいシステムだといい、トム・ビリーはつんぼは焼け死んでしまえばいい、ホームレスが射撃練習の的とさえ言う。ちょっとこのセリフも衝撃的で、聞いているのがつらい。トム・ビリーのこの極端な差別意識と優越感はどこからきてるんだろう。典型的なニューヨーカーあるいはIRAの考え方だとは思いたくない。トム・ビリーの生い立ちやIRAに入った理由は確か描かれていなかったはずだけど、なにか裏設定でもあるのかも。

このトム・ビリーに同調するかのようにマイケルが笑うのも胸が痛い。意思を持たない純真無垢な魂は、醜悪な色に染まってしまったかのような。
ルエリの皮肉にも気付かない。

トム・ビリーの言葉が悪いほど、ルエリに惹き寄せられる。
どうせ罵るんならイスラムのテロリストを、という言葉に、そうだね、と頷きそうになり、後から考えるとそれもどうよ?怖いのだけど。ラストが9.11で終わることを念頭に置くと、マイケルが、やつらは何を考えているのか、何を求めているのかわからないと繰り返すのも意味がこめられていそう。コステロが一応の答えをくれたけれど、マイケルは理解していないのではないかな。そんなの私だって理解できない。

トム・ビリーの悪態とルエリの皮肉の応酬は、口論に発展し、ついに手も出る。ルエリが殴られるのは、暴力的なシーンではあるけど、心に残る場面の一つ。
お前はまた女を殺す。ルエリの言葉は、トム・ビリーの痛いところを突いたんだろうか。ルエリを殴るトム・ビリー。
間に入って冷静になれ、「命令だったんだ」と叫ぶマイケルにとって、命令は絶対。
「俺を殴れって?」と問い返すルエリに「彼女を殺せって」とマイケル。更に「お前の彼女を殺せって」と叫ぶルエリをマイケルが殴った。

この「お前の彼女」の意味も長いこと考えた。
単にエリザベスのことを言ってるだけなのか、マイケルの彼女というところに重点おかれてるのか、どっちだろう?と。
マイケルがルエリを殴ったことで、エリザベスのことを、命令だからと受け入れてしまったかのように見えた彼の心の中に、消せないわだかまりがあったことがわかった。
一方のルエリは、マイケルに対して、エリザベスを殺さたことすら受け入れ、トム・ビリーの差別発言に笑って同調していることへの反発心のような、正義感のようなものがあったのかな、とも思う。
二幕の終わりでルエリが言った、IRAの嫌なところは殺しちゃうところ、というのも、ここにきて重みを増して響いてきた気がした。エリザベスの粛清は、マイケルを完全に唯々諾々とした人間に仕立て上げた以上に、ルエリに影響を与えたのかな、と。
唯々諾々って、マイケルにぴったり…

とすると、マイケルの「彼女を殺せって」というセリフは=「エリザベスの粛清は命令だったんだ!」という意味だけど、ルエリの言う「お前の彼女を殺せって」というセリフは、=エリザベスというわけではなく、セリフのとおり、「自分の彼女を殺せ、という命令でも従うんだよな?」という意味合いだと解釈。お前の彼女だからエリザベスは殺されたんだ、という意味まではないと思った。
戯曲もここは(たぶん)同じセリフと行動しか書かれていなくて、観客に解釈を投げかけられているよう。
トム・ビリーに、自分はルエリを殴ったのか?と尋ね、後ろを向いて悔しがるような口調。
MICHAEL: Hell, did I punch Ruairi? TOM BILLY: Yeah. MICHAEL: Shit.

たかがお芝居にこんな時間をかけて考えて書き物をしている自分が愚か者。
お芝居だからね。そんなに考えなくていいよ、と言う浦井くんの声が聞こえてきそう。

ルエリがバスルームに入っている間、トム・ビリーがルエリが密告者じゃないかとマイケルに吹き込む。それはそのとおりなのだけど、マイケルくん素直だからっ。
その後のルエリのセリフもすごく好きだ。トム・ビリーに対しては、なんで殴るんだ凶暴なやつだな。マイケルには、おまえもなんで殴るんだ?凶暴じゃないのに。
けれど、マイケルは答えない。自分が人を殴ったということに驚いているのか、それとも本当はただ命令に従っただけではなく、無理やり抑え込んでいた想いを無意識に爆発させてしまった自分に腹を立てたんだろうか。小爆発程度だけど。


コステロが大荷物を持って入ってきて、中を見たマイケルが「クマちゃん、可愛い!」というこのセリフ、マイケルではなく、浦井くん仕様みたいな気がしてしまったけど、戯曲も、Teddy Bears! Cute!
なので、ちゃんとこれはマイケルのキャラなんだろうなぁ。50過ぎたオジサマが、力強く可愛い!という姿…。

クマちゃんのヴォイスBOXを起爆装置に詰め替えて、本国に送るという計画。部活動のノリ。もし税関で見つかってもヴォイスBOXだと思うね! って、ほんとかい? テロってそんなに手軽なの? この行為、IRA=テロだとして。でもオマーの爆破事件は実話なんでしょ?
FBIは情報を得ていた。税関は通った。それならむしろ…。

ルエリはクマちゃんの送り先がどこなのか気にする。ルエリとコステロの話の間に割って入るトム・ビリーがひどく不愉快に感じる。トム・ビリーはルエリを仲間じゃなくて、自分より下の人間だと思っているのかな。
どこが標的なのかを知りたがるルエリ。教えないというコステロに、それじゃあ俺はやらない、と手を挙げ、エニスキレンの後、これからはイギリス軍だけを標的にするって約束したよね?とコステロに食ってかかったルエリ。新しく生まれ変わったIRAの命令だというコステロに、あんたの意思で動いてるんだろ?と言い返すルエリが頼もしく感じるけれど、この時点のコステロの立ち位置はどうなんだ。

アイルランドには家族がいる、と激昂するルエリに、コステロは根負けしたのか、オマーだと告げ、ルエリは俺はやめた、と言う。
やめるという選択肢はIRAにはない。
それでもルエリはやめた、と言う。トム・ビリーに行く手をふさがれたルエリがぶるぶる震えてた。出て行けば殺される。それでももう命令に従うことはできない。
行かせてあげてください、と言うマイケルの言葉は、行かせたらルエリが殺される、ということまで考えていたとは思えず、ルエリの自由にさせて欲しいという、考えの浅い「優しさ」から出た言葉じゃないか。

行かせてやれ

ビッグ・フェラーの一言の意味は、死刑判決をしたのと同様。報告しなければいい、と簡単に言うマイケルに、コステロは報告はしなければならないと言う。
マイケルは、エリザベスを受け入れたのと同様、ルエリのことも受け入れたみたいだった。
当然、命令が出る、というトム・ビリーに、それまではほっとけ、と言ったコステロの表情が読み取れない。でもいつも感情的ではないからな。ルエリの行動が、コステロを変えただろうか。

ルエリが密告者じゃないかと疑っている、というトム・ビリーをコステロは否定した。ルエリは何も知らなかった、と言う。
マイケルがコステロに問うた、イスラムのテロリストは何を求めているのか、に対してコステロは、どこの宗教でも同じで、自分たちが人間だから、罰を与えようととしている。
八百万の神の国の信心深くない日本人には、民族問題に加えて信仰心が絡んでくると理解はよけいに難しくなるな。

ニ場 美術館
背景に流れる音楽が、怯えているルエリの表情を引き立てているよう。カレルマはいない。切羽詰まった声で、オマーをやるつもりだと告げ、電話の向こうのカレルマにどこでもいいから早く逃がしてくれと言うルエリ。
電話が切られると、硬く怯えた表情のままルエリはゆっくりと下手側に歩いてフェイドアウト。
小説だったら、「ルエリの消息はこれ以降、杳として知れない。」とでも付け加えたい。

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